FC2ブログ

装飾の争い


知財高裁で平成28年(行ケ)第10087号 審決取消請求事件という事件を見つけました(裁判例はこちら)。

この事件は、ある特許権(特許第4465408号。発明の名称「物品の表面装飾構造及びその加工方法」)に対して無効審判が請求され、この無効審判では特許は無効にならなかったところ、これに不服とする原告が審決の取り消しを求めて提起した訴訟です。

結果としては原告の請求が棄却され、特許はそのまま生き残っています。

争いの内容は判決文をご参照していただきたいのですが、ちょっと興味深いのがこの特許の成り立ちと内容です。

まず、この特許、初めは実用新案登録出願され、その後に特許に変更され特許になっています。しかも早期審査されています。

アクセサリー等の表面装飾に関連する技術なので、もしかしたら当初は特許は難しいかな、と思ったのかもしれません。しかし、市場に出してみたら「これは特許にしないとまずい」という状況が発生して考え直し、特許に変更したのかもしれませんね。

そして、どんな特許かというと、「加工が容易であって、任意デザインの金属光沢による高級感のある装飾模様を形成することができ、要に臨んで、立体的な装飾模様を形成することも可能な物品の表面装飾構造及びその加工方法を提供する」(上記特許の特許公報の段落【0007】から抜粋。)という課題を解決するためになされた発明で、請求項1だけ抜粋しますと、
「【請求項1 】
 透光性を有する透明または半透明のプラスチック材料で構成した基材(1 )の表裏に位置する表面において、少なくとも金属光沢を有する金属材料が層着した金属被膜層(2 )が形成されている一方、
 この金属被膜層(2 )の少なくとも一部にはレーザー光が照射されることにより設けられた剥離部(21)が表裏面で対称形状に設けられており、この剥離部(21)において前記基材(1 )の表面が露出して、当該基材(1 )の外観と残存した金属被膜層(2 )の金属光沢との相異により装飾模様(P )が形成されており、
 基材(1 )および金属被膜層(2 )がそれぞれ表出した状態で、これらの表面が透光性を有する合成樹脂材料からなるクリアコーティング層(3 )によって被覆されて、前記金属光沢による装飾模様(P )の表面が保護されていることを特徴とする物品の表面装飾構造。」
というものです。

アクセサリーや宝飾品等の表面装飾というと、意匠という意識に傾きがちですが、特許(本件ではまず始めに実用新案)で保護することができる面もあります。

そして、本件のように無効審判を請求されるほど、(おそらく)競合に大きな影響を与える場合もありますので、自社が製造販売するものがどのような影響を外部に与えるのか、キッチリ検討しておくことが必要ですね。

今知的財産事務所
スポンサーサイト

コンセプト特許の技術的裏付け


アイデア段階からのご相談を受けることも多くありますが、コンセプトレベルで特許権を取得することができれば、権利範囲的にも応用的にも事業にとってかなり有用です。

ただ、コンセプトレベルの発明の場合、発明者・開発者の側で技術的な裏付けまではあまり考えられていないことも多くあります。その場合は、弁理士が、ある程度、技術的な裏付けを検討・追加し、実際にその発明を実施できると考えられるレベルまで仕立て上げる必要があります。

この様なコンセプトレベルの発明の特許化を目指すことはよくありますが、とてもやりがいがありますし、技術的な裏付けをする過程がとても面白く思います。

予め技術面がきっちり決まっている発明では、ある意味、コンセプトはほぼ決まっており、弁理士側がアイデアの糸口を提供する範囲は限られていますし、技術内容も弁理士側が提案する余地は狭いことが多いです。

一方、コンセプトレベルの発明の場合、通常は、そのコンセプトを創り出す前から弁理士も同席し、あーでもないこーでもない、とワイガヤの中からコンセプト創造し、創造したコンセプトに基づいて、技術的な裏付けを追加して特許出願します(実際はこれだけでなく、コンセプト創造前に先行特許の調査等、様々な「下準備」をします。)。

そして、本当にこれまでなかったコンセプトだとすんなり権利化されることもありますが、権利範囲が広くなりがちなので権利化まで苦労することもあります。

ただ、これまで私が初めから携わったコンセプトレベルの特許出願において進歩性欠如の拒絶理由は多々受けたことがありますが、実施可能要件違反の拒絶理由を受けたことは幸いにしてありません。

コンセプト創造前の先行特許調査が、ある程度の技術の勉強にもなりますし、事案に応じ、その都度、関連書籍を購入して情報収集しているので、実施可能要件はクリアできている、ということなのでしょう。

コンセプトレベルの発明では、このように技術面での裏付けが不可欠なことが多いですが、そのために都度、勉強する、ということを楽しめるのであれば、この仕事に向いているといえるかもしれません。

今知的財産事務所

技術者とコピーライターの類似点


 弁理士でありながらなぜかコピーライター養成講座に通っているのですが、ターゲットのインサイトの重要性をひしひしと感じています(私にとっては見つけるのがまだまだ大変なのですが。。。)。

ところで、顧客の明示的な要望を取り入れた製品・サービスは大して売れない場合がある、ということは製品・サービスを開発している人たちであれば肌で感じていることだと思います。

重要なのは、既に明らかになっている課題ではなく、顧客が明確には意識していない課題や不満を探るというスタンスです。

これは、意外かもしれませんが(実は全然意外ではないのですが)、コピーライターと共通します。コピーライターの多くはターゲットのインサイトは何のか?と常に考え、様々な切り口を探しています。

既にやっている人は多いと思いますが、技術者も顧客、あるいはその顧客の顧客のインサイトは何なのかを探る、ということを癖にしておくと、様々な課題が存在していることに気が付きやすくなります。

課題に気が付けばしめたもの。

コピーライターだったら新たな価値観をコトバで表現しますが、技術者であれば後はその課題をどうやって解決できるのかを考え、課題が解決されたシーンを想い描いてコンセプト創造し、創造したコンセプトの実現のために自分たちに何ができるのか(何を創り出せるのか)を考えればよいからです。

そして、自分たちの技術だけでできるのか、何か他の技術を組み合わせたり新たに創り出さなければいけないのか、自分たちでは全然できないから外にパートナーを探さなければならないのか、コンセプトだけを明確にし、明確にしたコンセプトをそれを実現できる外部の企業等に提供するのか等々、いろいろ考えることになります。

その過程で様々な新たなアイデアや技術等が生まれていきます。その過程が、色々な苦労はありますが、面白いんですね。

養成講座に通っていて、改めて、製品・サービス開発の上流から携わることが一番面白い、と再認識した次第です。

コピーライター(クリエイター)と技術者とがもっと協働すると、より面白いもの(しかも、売れるもの)が生まれるかもしれませんね。

今知的財産事務所

スタートアップ支援で重要なこと

 
最近は特許庁もスタートアップに対する支援に力を入れています。私もスタートアップ企業のお客様について知財面からサポートしたことがあります。

その経験から、スタートアップが(というか、サポートする側が)知財について注意しなければならない点があるな、と思うことがあります。

スタートアップに限りませんが、新規ビジネス・新規事業をやろうとする場合、大まかに言って、創業者や立案者が、どのような価値を社会に実装したいのかを構想し(どのような未来を実現したいのかを構想する、とも言えます)、その価値を実現するプロダクトやサービスを設計して実際に創っていく、というプロセスがあります。

その「価値」ですが、買ってくれる人(つまり顧客です)をきちんと意識しているかどうかによって、「価値」が有用なのか否か、有用性の高低が変わってきます。

つまり、ターゲットは誰であるのかを考え、ターゲットの視点・価値観からターゲットのインサイトを考える、というプロセスが重要です。

「いい技術がある」といったとしても、その「いい」とは誰にとって良いのでしょうか?あくまで顧客にとって「いい」ものでなければならず、顧客に好きになってもらえるプロダクト・サービスでなければ意味がありません。

それを顧客が手に入れたらどんなハッピーなこと(BtoCだったら、どんなにハッピーな暮らしになるのか、BtoBだったらどんなにハッピーな効果が得られるのか等々)が得られるのか、顧客の暮らしがどう変わるのか、を考えるということです。

このプロセスを抜きにして、この技術について特許を取ろうとか、このデザインについて意匠を取ろうとか、とりあえずネーミングについて商標を、というようなことにならないように気を付ける必要があります。どんなハッピーなことがあるのかを考えなければ、適切な知財の設計や権利取得はできません。

ただ、これを特に気を付けなければならないのは支援する側です。つまり、知財面をサポートする弁理士等の外部専門家が、上記プロセスをしっかりと把握した上で支援しなければなりません。

知財はあくまでも事業を支える土台の一部です。事業に使える知財でなければなりませんが、「権利を取ろう」という意識が強すぎると使えない知財になってしまいかねません。

そうならないように、うまくいっているスタートアップは(スタートアップに限らず、うまくいっているベンチャー・中小企業もそうです)、知財を担当する者だけでなく、エンジニア、デザイナー、時にはマーケターやクリエイターを交えて協働しており、結果としてビジネスが明後日の方向にいかないようにしています。

事業開始初期段階でブランド力もない中、知財はもちろん重要ですが、重要だからこそ上記の点をしっかり認識してスタートアップ企業を支援していく必要があります。

そのような事務所でありたいと思います。

今知的財産事務所

早い段階から外部意見を取り入れる体制が重要

 
「中小企業」や「ベンチャー企業」と、ついつい一纏めにして語られがちですが、これには私自身は少々違和感があります。

様々なタイプの中小・ベンチャー企業とお付き合いさせていただいていますが、確かにヒト・モノ・カネという点では大企業に比べれば不足している点は否定できませんし、いわゆる下請け企業も多く存在しており、発注元の影響力から逃れられない企業も確かに存在しています。

しかし、大企業よりはるかに利益率の高い中小企業は結構ごろごろしていますし、ビジネスの内容も非常に興味深い(市場規模から大企業が入ってこないという面もありますが)ところも多く存在しています。

そういった中小・ベンチャー企業に共通している一つの点は、自分たちのビジネスの構想がしっかりしている(デザイン思考で考えている)、ということです。

実例を見ていると、中小・ベンチャー企業の場合、それぞれの市場においてどういう状況を達成したいのかを設定し、そのために何をして何をしないのかを検討した上で、自分たちでできることは自分で実行し、できないところは外部専門家に参加してもらう、ということをキッチリと実行しているところがうまくいっているように思えます。

ある中小企業さんは、製品開発する前に開発予定の製品が他社権利の侵害でないかどうかを確認し、かつ、先行特許を考慮して開発方針に必要に応じて修正を加え、次々に上市していく一方、特許出願は基本的にしない、という方針でかなりの利益率を達成しています。

この企業さんの場合、先行特許の調査、及び先行特許に基づく開発方針のヒントになるコメントについて私に依頼されています。

製品市場の特性にもよりますが(上記の場合、次々に開発していくことが重要視される市場であるという特性)、特許を用いて他社の排除をしなくても、その他の知財(例えば、ブランド面)で市場におけるプレゼンスを圧倒的なものにする、という方針が有効であることがあります。

上記の例は知財の基本を利用しているといえばその通りですが、対象市場を適切にとらえた上で採用した方針で、市場が異なればまた違う方針をとることもあり得ます。

世の中で一般に言われている知財戦略は、どうしても世の中に情報が出やすい大企業を事例にしていることが多く、そのような知財戦略は中小・ベンチャーにはうまく適合しないことが少なくありません。その中小・ベンチャー企業が置かれた状況をきちんと把握した上で、様々な方針をうまく組み立てて適合させていくことが必要です。

「中小」とか「ベンチャー」というとステレオタイプ的に大企業より下に見られがちですが、ビジネスの進め方をうまく組み立てれば、決して大企業に引けを取ることはありません。

とはいえ、気を付けなければいけないことは、あるビジネス・事業を進める場合、そのなるべく初期段階から弁理士に限らず外部専門家の意見を聞ける状況にしておくことです。中小・ベンチャーでは、どうしても「ヒト」が少ないという弊害から、多面的な検討が疎かになりがちだからです。

病気と同様に症状が出てしまってからでは危険な状況になりがちです。症状が出る前に、早め早めに手を打つことが、ビジネス・事業をうまく進めるためには必要だということを忘れてはいけないでしょう。

今知的財産事務所
カレンダー
07 | 2018/08 | 09
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -
プロフィール

【弁理士】今 智司

Author:【弁理士】今 智司
今(こん)知的財産事務所の所長ブログです。2011年1月に独立開業しました。知財はビジネスに役立たせてこそだ!と考え、技術、デザイン、ブランドの知財複合戦略を考えています。

今知的財産事務所

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
検索フォーム
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR